女王様御用達。
目測を誤ったか。

やはり存在が不鮮明かつどこに現れるかも分からない悪魔の男に協力をもとめるよりも、ミア達の近くにいて白銀の騎士を迎え撃つ方が得策だったか。

あるいは、悪魔の男がどこか遠く移動しきれない距離にいたりして。

ひょっとしてこの国境施設密着はとんでもなく意味のない行動だったりしたら。


しかし入ってくるならここしかない。





「こんにちわぁ。国境に入りたいんですが」



その間の抜けた声は、施設に響いた。

アタシは目を大きくこじ開ける。

空気が変わった。

ハチは気づかない。

黙々と汚い字をノートに並べている。

兵士達もにこやかだ。

「はい、一般用のパスですか?」

「あ。俺の特殊で、国家医師パスです」

特殊なパス。

アタシは足を組み直す。

兵士があたふたしている。

「国家医師!!何のご用でしょう」

「こちらの草にいいものがあるって聞いて。オーノン大学に呼ばれたんですよ~」

間延びした奴はニコニコ笑っていた。


白衣何だろうが、旅のしすぎで泥にまみれぼろぼろ。

20くらいの青年。

流行遅れの黒縁眼鏡に黒いぼさぼさの髪。

丸顔で、優しそうな垂れ目だ。

そんでちょっと肌が色黒だ。

覇気はまるでなく、穏和な空気を纏っていた。


「そうですか。パスを拝見します」

そのやりとりはあまりに簡単なもので、パスを見てそのまま素通りだった。

ちょ、兵士。

「お通り下さい。オーノンの旅を楽しんで」

「ありがとう」


会釈を仕返し、通るそいつにアタシは笑みを浮かべ槍を握った。


「なんかえらそうな立場なのに、腰低いっすね。あの医者」

「頭叩きにいってくる」

「……え?」



ハチの静止を振り切り、アタシは彼の後ろを追った。



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