負け組女子高生
「麗華、トイレ行こ。」
プリントの確認をしている私の横で、暇そうに携帯をいじっていたマリエは突然立ち上がり、カバンからポーチを取り出した。
−トイレぐらい独りで行けばいいのに。
きっと1人で廊下を歩く事に慣れていないんだろう。
じめじめとした廊下を歩き女子便所に入ると、幸い誰もいなかった。
マリエは鏡の前に立つと、ポーチからY字のつまようじ程の棒とのりを取り出した。
アイプチだ。
ひとえまぶたをのりでくっつけて二重にしてしまうという、一重まぶたがお悩みの乙女にとっては魔法のアイテムだ。
無論アイプチの存在を知っている女子からすれば自然二重と偽二重の違いなんて一目瞭然なのだが。
マリエはまぶたにべったりと白いのりを塗りたくると、棒を引っ掛けた。
目も口も半開きで、みっともない表情だ。
私はその様子を鏡越しに見つめた。
私の目線に気付いたマリエは口を尖らせた。
「麗華はいいよねー。自然二重で。」
「二重でも不細工じゃ意味ないし。」
私は苦笑いを浮かべた。
「あっそれもそうかなー」
彼女は適当にあしらった。
お世辞でも「そんな事ないよ〜」とか言う気はないらしい。
その方がスッキリするけど。
マリエはスパッと話を切換えた。
「あたし今日スッピンなの。やばいでしょー!?」
「そうなの?きづかなかった。」
気付かなかった、というより興味がなかった。
「やーんひどくなあい!?…あっ麗華化粧とかしないしね。違いとかわかんないよね」
わからないハズがない。
スッピンはノーコメントだが、とにかくマリエの化粧といえば
目の周りが真っ黒に塗りたくられ、近くで見るとムラだらけでひどい。
あえてその事には触れないようにしている。
「麗華は化粧とかしないの?」
ふいにマリエが聞いてきた。
「私が化粧してきたらみんな焦るでしょ」
私は笑った。
「あぁーそうかもねー。」
会話は終わった。
マリエが目の周りを囲んでいるうちにチャイムがなった。
「あーなっちゃったー。まっいっか。」
はぁ。またこいつと一緒に遅刻届け持って入らないといけないのか。
これじゃ早く学校来てても意味ないじゃん。
でもそんな事言い返せなかった。
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