境界
【第6章】境界型人格障害の特徴的な症状
 僕が仕事している時に、突然こんなメールが来た。

「明日、旅行に連れてって。」

「急には無理だよ。明日も仕事あるから。」

「どうしても、明日行きたいの。」

「どこへ行きたいの?」

「沖縄。沖縄が駄目だったら、どこでもいいよ。」

「行きたいところがあるから、旅行に行きたいんじゃなくて、とにかく旅行なの?」

「うん、どこでもいいの。とにかく、明日旅行に行きたいの。明日じゃないと駄目。」

「なぜ、明日じゃないと駄目なの?
仕事があることぐらいわかってるだろ。
急に休みを取るなんてできないよ。
しかも、理由もよくわからず…。」

「理由がないと駄目なの?私のこと愛してないの?
もう、私のことなんて、どうでもよくなったの?」

「そんなことないよ。今でも、君のことは大好きだよ。
でも、いくらなんでも、今日言って、明日行くなんて無茶だよ。」

「もういいよ。あなたには、何も頼まない。
健次君といっしょに行くから。」

「何言ってんだ。俺が駄目だからと言って、
なんで弟の健次を誘うんだ。」

「だって、健次君はいつも私に優しいから。」

「それだけの理由?話にならないよ。好きにしたら。」

 その後、幸子は本当に健次を誘った。
 しかし、さすがに健次も旅行は断った。
 結局、幸子の旅行は実現しなかったが、
 不可解な行動がこの後も続くとは、その時僕は全く予知していなかった。

 無理難題を押し付け、自分の思い通りにならなければ怒り、周りの人たちを困らせるのも、境界型人格障害の特徴的な症状のひとつである。


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