境界
「いいんですか?」

「何が?結婚していたって、
素敵な女性とお話してみたいという気持ちは抑えられないからね。
実はね。三年前に一度出会ってるんだよ。」

「どこで?」

「小学校の教室の中で。土曜参観日に。」

「もしかして、私の横で、奥さんと口喧嘩してた人?」

「それ。ちょっと格好悪いとこ見られたけど。」

 幸子は少しためらったが、思い切って聞くことにした。

「奥さんって、いつもあんな調子ですか?」

「大体あんな感じかな。
正直言って、女としては全然見てないけどね。
家政婦みたいなものかな。
子供とおふくろの面倒は見てくれるから助かるけど、
いつもデカパンとババシャツ、色気もクソもない。」

 幸子は、妻の悪口をいう男は好きではなかったが、
吾郎に関しては、不思議と愚痴を聞くのも苦痛ではなかった。
 むしろ、聞いてあげたいという気持ちになっていた。
 それから、お酒を何杯おかわりしたか覚えてないぐらい飲んでしまった。

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