境界
【第8章】家族の苦悩
「最近、会社を休みがちみたいだが、どうしたんだ?」

「何もないよ。お父さん。」

「何もないことはないだろう。
お前は、意味もなく、会社を休むのか?
そうやって、また会社を辞めるつもりだろう。」

「お父さんは、いつもそう。
娘のことを心配しているふりして、
世間体ばかり気にしているのよ。
もう、ほっておいてよ。」

 実際、幸子は大学を卒業後、仕事が長続きせず、
既に、今の会社が5社目である。

 父親の勝雄は、以前から幸子の言動に手を焼いていた。
 母親が病気がちだったせいもあり、
幸子は母親に甘えることができず、
しかも、銀行員である父親は、毎晩遅くまで仕事があり、
幸子の幼少の頃は、寂しい日々を過ごしていた。
 そのことを、勝雄はわかっていたが、
あまり幸子のことをかまってやれなかった。

 10歳以上離れた妹の面倒をよく見ていた幸子だが、
幸子自身は、いつも寂しさでいっぱいであった。



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