恋口の切りかた
鳥英が家を空けている時、これまでも俺は勝手に上がり込んで彼女の帰宅を待っていたりしたので、

今日もそのつもりで勝手に戸を開けて中に入った。


ゴロゴロ、と鈍色の空が鳴った。

傘を戸口に立てかけて、戸を閉めようとして──


「円士郎……殿……?」


薄暗い長屋の奥から名を呼ばれて飛び上がりそうになった。

「うお!? 鳥英? 脅かすなよ」

長屋の中にぽつんと座っていた女を目に留めて胸をなで下ろす。

「なんだよ……いるなら返事くらいしてくれよ」

下駄を脱ぎ、桶に汲まれていた水を勝手に使って、足を拭いて板の間に上がり込み──



そこで、ようやく気がついた。



「鳥英……どうした?」





彼女は泣いていた。
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