恋口の切りかた
鳥英は白い頬を涙に濡らして、声も漏らさず、暗い室内で一人ひっそりと泣いていた。
「おい、何かあったのか……!?」
俺は驚愕し、戸惑った。
初めて留玖が泣くところを見た時もそうだったが、俺は鳥英のこともちょっとやそっとのことでは泣かない強い女だと思っていたので──
長屋を訪ねてこんな場面に遭遇することは全く念頭になかった。
宗助から鳥英の情報を聞かされていた俺はすぐに意識がそちらに向いて、
「ひょっとして──遊水と何かあったのか?」
そう尋ねたのだが……
鳥英は静かに首を横に振った。
違うのか?
他に思いつくことがなくて、泣いている女を見下ろして突っ立っていたら、
「……虹庵先生が……」
鳥英の唇からは予想外の名前が飛び出して、俺はびっくりした。
「虹庵先生? 先生がどうした?」
よもや虹庵の身に何かあったのかと、俺が今にも表に飛び出しそうな勢いで開きっぱなしの戸口を振り返ると、
白い手が伸びて、俺の着物の袖を引いた。
振り返ると、
俺を見上げて、鳥英が涙をこぼしながら弱々しく笑んだ。
「馬鹿だな……私は」
「え……?」
「お前は正しかったよ、円士郎殿……」
「おい、何かあったのか……!?」
俺は驚愕し、戸惑った。
初めて留玖が泣くところを見た時もそうだったが、俺は鳥英のこともちょっとやそっとのことでは泣かない強い女だと思っていたので──
長屋を訪ねてこんな場面に遭遇することは全く念頭になかった。
宗助から鳥英の情報を聞かされていた俺はすぐに意識がそちらに向いて、
「ひょっとして──遊水と何かあったのか?」
そう尋ねたのだが……
鳥英は静かに首を横に振った。
違うのか?
他に思いつくことがなくて、泣いている女を見下ろして突っ立っていたら、
「……虹庵先生が……」
鳥英の唇からは予想外の名前が飛び出して、俺はびっくりした。
「虹庵先生? 先生がどうした?」
よもや虹庵の身に何かあったのかと、俺が今にも表に飛び出しそうな勢いで開きっぱなしの戸口を振り返ると、
白い手が伸びて、俺の着物の袖を引いた。
振り返ると、
俺を見上げて、鳥英が涙をこぼしながら弱々しく笑んだ。
「馬鹿だな……私は」
「え……?」
「お前は正しかったよ、円士郎殿……」