恋口の切りかた
鈴乃森与一──!?


円士郎が口にした名前は、私の頭を完全停止させた。


「なんだ、鈍いかと思ったらシッカリ気づいてるんじゃないか、円士郎様」


固まっている私の前で霧夜は鼻を鳴らして、顔の真ん中の凶悪な傷を

──ぺりぺりと指で剥がした。


「いつ気づいた?」

「『虎の暗夜霧夜』のほうは今だよ、クソ! 完全に騙された!
『狒狒の正慶』のほうは──緋鮒の仙太の話を聞いた日の、寺からの帰り道だ」


円士郎の言葉で、私はまたまた頭の中が真っ白になる。

狒狒の正慶?

って、あの──廃寺の、目玉がポロポロ落ちる尼僧の?


傷を剥がし終え、手拭いでごしごしと「顔に施されていた化粧」を拭き取りながら、
散切り頭の男は「へえ?」と興味深そうな声を出した。

「やっぱり裸を見せたからかい? 暗かったし、バレない自信はあったんだけどねェ」

「甘いな。俺の部下には、一目見ただけで最初に男か女かわかる奴がいるんだよ」

「あァ、あの時のもう一人のお侍か」

納得したように頷いて、隻眼の男は拭き終えた美しい顔をこちらに向け、切れ長の目を細めて笑った。


その顔をボンヤリと眺めながら

私は、尼僧に会った廃寺からの帰り道、隼人が口にした驚愕の内容を思い出す。
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