恋口の切りかた
こうして、この事件は終わり、

後日、登城した俺は、伊羽青文にかねてから頭の中にあった考えを伝えた。


「ほう? この国に火盗改め(かとうあらため)を?」


俺の話を聞いた青文は、覆面の下から相変わらずくぐもった声で面白そうに言った。


「そうだ。江戸の火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためがた)と同じような、番方の犯罪捜査組織を作る」


火盗改め(*)──正式には火付盗賊改方という組織は、町奉行が十手片手に立ち向かっても手に負えないような、武装した盗賊などの凶悪犯罪者を捕まえるために江戸に置かれたもので、

例え相手が町方では手の出せない武士や僧侶であっても捕まえることができる。


「剣の腕に秀でた者を集めてな。今回の事件で、俺たち番方の助役が相当役に立ったことは家中に示せただろ?」


このために、俺はどうしても番方の手柄が欲しかったのだ。


「盗賊改方ってところだな。盗賊改方頭には俺が就く」

くくく……と覆面家老は低く笑った。

「成る程。貴殿はそのようなことを考えていたわけですな。宜しい」

伊羽青文は手にした扇でぴしりと膝を打って頷き、

「盗賊改めか。確かに……必要となるかもしれぬ」

何事かを考えこむようにしてそう答えた。


この提案をした俺の頭の中にも──この時当然、盗賊「闇鴉」の一味のことがあった。

しかし俺が城下に盗賊改めを置こうと思ったのは、留玖のつらい過去のことや、秋山隼人の剣の腕を知ったことなどがきっかけで、
考えついた時には闇鴉など全く知らなかった。


まさか知らずに、盗賊に対抗するための組織を作ろうとするとはな。

本当に──因果だな、と俺は心の中で苦笑した。


(*火盗改め:火盗とも言う。町奉行は役方の組織だが、火盗は軍人である番方の捜査組織で、現代でいう機動隊のように犯罪者の武力制圧ができた)
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