恋口の切りかた
「いつか彼女と話したことがある。恋は花のようなものだと」

「花?」

「それだけを愛でる生き方は、私はしないと。
彼女は俺にそう言ったよ。花も恋も、時たま楽しむからこそ美しいのだと」


その時の会話を思い出すかのように、彼は目を閉じて、


「それこそが、絵でも学問でもなく――俺が彼女に最も共感する価値観だった」


そう紡いで、西の空にわずかに残った夕日の欠片の赤い色を仰ぎ見た。


「その言葉のとおりに、彼女は俺との色恋にも流されなかった。俺が本気で惚れたのは――そういう、己を持った女だ。

だから俺も……」


続く言葉を待つ俺に、


「潮時ってヤツかと思ってね」


彼はそんな言葉を放った。


潮時? 潮時──


俺は頭の中で何度もその単語を反芻した。

それを口にした男の胸の内は、理解できなかった。
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