恋口の切りかた
とにかく漣太郎がいないのならば、
代わりにせめてお前たち二人でもと

平司と私も客間に呼ばれて行くと──



「まことに面目次第も無い!」



座敷で父上と顔を合わせてすぐ、

漣太郎のことで謝ろうとしていた父上に

そう言って平伏したのはなんと大河様だった。



「は? どうされた、余左衛門殿」

父上は面食らった顔になる。

「そう言えば──その、ご息女は?」


ご息女……?

父上の問いに、大河様はしたたる汗を拭きながら大きな背中を小さくして


「そ、それが……ここへ来る途中、町中で供の者が目を離した隙にどこかへ──ただ今、探させております最中なれば……」


思わず私たちは三人で顔を見合わせた。


「本当にどこへ消えたものか──人見知りする大人しい子で……普段はこのようなこともないというのに」


滝のように汗をかいて縮こまっている大河様。

名門同士の昵懇の間柄と言っても、
やはり結城家は格が違うのだろうと思わせる態度に

私はあらためて自分が恐れ多い場所にいることを実感した。
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