恋口の切りかた
「海野……このような真似、貴様らこそが謀反人ではないか。

誰か! この不埒者を捕らえる者はおらぬのか!」


殿は動こうとしない家来たちを見回して、


「皆、貴様の手の者か……!」


清十郎を睨みつけて唇を噛んだ。


「この謀反の首謀者は誰だ!?
私を隠居に追い込んでこの国の主君に成り代わろうという、貴様の言う『もっと相応しい御方』とは──」


殿の問いに、


「先法御三家が一つ菊田家の現当主、菊田水右衛門様ですよ」


清十郎はそう答えて、


「馬鹿な──」


殿が顔面蒼白になった。


「ご存じでしょう? 先々君の弟君である菊田様は、れっきとした砂倉家の血を引く御方。
ただの養子であるあなたとは違ってね」


「そんな……」

殿はがたがたと震え始めた。

「これは……ではこの謀反は、あの人の……意志か……?」


「あの人」というのは菊田水右衛門のことだろうか。


問いただした殿の態度に、清十郎がやや怪訝そうに眉根を寄せて、

「その通りです」

と答えた。


殿が凍りついた。


「そうか……」

しばしの後、殿はがっくりと肩を落とし、

力を失ったように、よろめきながらそばの駕籠によりかかって──


目の前の出来事をぼう然と眺めていた私は、はっと我に返った。
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