恋口の切りかた
「冬馬ッ!!」

俺は薄暗い部屋の中で、倒れ伏した義弟に駆け寄った。


「兄上……」

冬馬が掠れた声を出して、首だけを持ち上げて俺を見上げた。


持っていた刀を置いて、

両手で冬馬を抱き起こして、



血だらけの着物を見て、唇を噛む。



「馬鹿野郎、お前……どうして俺が来るまで待たなかった!?」


障子を閉め切った屋内の光では暗くて傷の深さまではわからないが、切り裂かれた着物の様子だと、腹から胸にかけてざっくりと斬られていることがうかがえた。


「お前が俺より先に腹切ってどうするんだよ……!?」

俺は懐から手拭いを取り出して、夢中で冬馬の傷口に押し当てて──


「甘い奴だ。刀を向けながら結局、最後の最後でこの俺に対してためらった」

夜叉之助が氷のような声を浴びせてきた。
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