恋口の切りかた
【剣】
初めて入る離れの中は立派なお座敷で、
ぷんと少しなつかしいような香りがした。
自分を捨てた農民の母の、
本当にめったに使うこともなかった白粉(おしろい)のにおい。
女のひとのにおいだった。
「ぬしが、留玖殿か。
なるほど、晴蔵様の言うとおりじゃ。男のなりじゃな」
きれいな屏風(びょうぶ)の前に座ったりつ様は、
向かいにかしこまって正座した私を見てそう言い、
「もっと楽にしなんし」
と微笑んだ。
不思議な言葉だった。
どこかの郷里の言葉だろうか。
私は思わずぼうっと見とれてしまった。
華やかな柄(がら)の着物に身を包んだりつ様は
とてもとても美しくて、
まるでお姫様のようで──
いったい、いくつなのだろう、と思った。
母上の奈津様も、若くてきれいな人だけれど、
目の前の女性はまるで少女のようにも見える。