恋口の切りかた
振り返った先で、円士郎は庭木の下から均された土の上に歩み出て、

やっぱり優しい瞳に私を映した。


……いやだよ……

怖いよ……エン。


彼の瞳には何一つ変わらず、揺らがない決意の光が灯っていた。


そんな目で私を見ないでよ……。


「どうか、虹庵先生を呼びに行ってはもらえませんか」


円士郎はそう繰り返して、

私はいやいやをするように首を何度も横に振った。


円士郎は、刀を手にした私を、困ったように見つめた。


「できることならば、あなたを私の切腹には立ち合わせたくない。

あなたの中には──むごい思い出として残りたくない」


彼の声はどこまでも優しくて、

真っ直ぐで──



「ただ──潔い男だったと思っていてほしいのです。

あなたが好きだと言った桜の花のように」



私のほっぺたを、涙が伝い落ちた。


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