恋口の切りかた

六、月下の凶刃

 
 【剣】

私が離れから出ると、裏手のほうで何か物音がした。


何だろうと思って行ってみたけれど、特に何もなかったので──

私は首をかしげつつも離れを後にした。


りぃりぃ、と夏の終わりの虫の声が聞こえる静かな夕べだった。



りつ様のさびしそうな表情や、
「幸せでありんす」という答えが何度も頭の中をめぐって、

何だか釈然(しゃくぜん)としないような、モヤモヤした気持ちのまま母屋に戻ると
夕食の席には、父上の姿がなかった。

何でも今日は、新しく城代家老になった伊羽様のお屋敷に呼ばれて行ったのだそうだ。

こんな時間から、何の用事があるのだろうかと少し変な気もしたけれど、
子供だった私は大して深くも考えなかった。


罪人が逃げ込んだかもしれない時に
当主が不在になるというのも不安な気がしたけれど、

母屋には漣太郎と平司がいるし、離れには私がいるから大丈夫ってことなのかな……。
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