恋口の切りかた
見知らぬ男が一人、襖の向こうに立っていた。


思わず刀を抜きそうになる私に、


「留玖殿、お待ちなんし」

「待った! 待ってくれ!」


りつ様と、
開いた襖の向こうから現れた人物と、

両方から声がかかり、かろうじて私は動きを止める。


「私は怪しい者ではない!」

「…………」

──うそつき。

両手を広げてさけぶ男は頬被(ほおかむ)りをしていて、

……どう考えてもあやしすぎだよ!


行灯から離れているため暗がりで顔までは見えないが、この家の中間や下男に思い当たる人はいなかった。

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