恋口の切りかた
動きやすいように、ということだろうか。
男は黒っぽいマダラ模様の小袖を尻からげにして、下には股引(ももひき)をはいている。

よく見ると、小袖の模様だと思った黒い部分は血の染みだった。


男が、頬被りを取った。


下から現れたのは、まだ二十歳くらいなのではと思える若い男の顔だった。

その頃の私にはまだ武士と町人の髪型の違いというものがよくわかっていなかったのだけれど、

その男の髪型は──
城下町で普段目にする、貸元の親分さんや子分さんたちの髪型よりは、道場に出入りしている侍たちの髪型に似ているような気がした。


「先刻、留玖殿が去った後、この者が晴蔵様に会いたいと参ったのじゃ。留玖殿を驚かせないよう、奥にかくれていてもらったのじゃが──」

「私は大河道場の門弟、堀口文七郎と申す者」

男が頭を下げた。
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