恋口の切りかた
それにしても、正面切って妻になれと言えないとなると──

留玖が俺の義理の妹だというこの関係は、面倒だった。


結城家の養女となったことに恩義を感じているならば、俺の予想だがたぶん留玖は……

絶対に一線を越えた感情など抱こうとせず、頑なに兄と妹というこの関係を守ろうとするだろう。


あいつって、妙に頑固な所があるからなァ。

しかも俺、今──なんか滅茶苦茶嫌われてるみたいだし。


間合いをはかってばかりでは駄目だと言っても、
昨夜のような、勢いに任せた真似は自制しないと逆効果、ってこと……だよなァ──。


「お前と留玖が初めッから恋仲だったら、儂も留玖をお前の妹という立場にはしなかったんだがな……」

留玖と俺のこの義理の兄妹関係に関しては、親父殿も苦笑気味に言った。

「ま、留玖を女だと知らなかったから仕方ないと、さっき奈津とも話しておったところだ」



フン、望むところだ、
このくらいの不利な条件のほうが、面白いってもんだ、

と俺がそんなことを思っていると、


「近頃お前が留玖に負け通しの理由がようやくわかったわ」と親父殿が言った。


「え……?」


俺の表情を眺めて親父殿は、何だ気づいていないのかと言った。



「惚れた女が相手では仕方のないことかもしれんが──

留玖を前に『手加減』などしていては、この先一勝たりともできなくなるぞ」



親父殿のこの予言は的中する。


自分でも気づかなかった無意識のためらいは、常に彼女と対等であろうとしていた俺からその関係を奪い去り──



これより先、
頭ではわかっていても制御できない己の剣に、俺は苦しめられることになる……。



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