揺れる、山茶花








(…あぁ、別に、この子からしてるわけじゃないか)


だって周りは、咲き乱れる山茶花の群れだ。

まるで山茶花に守られるように、私達は世界に取り残されている。

「…泣くことだって、あるかも」


ほら、山茶花も泣いてる。


赤鼻が私の肩に顎を乗せたまま、蜜蜂の飛ぶ先を指差す。

花弁の端が茶色く色褪せた、ぼってりとした山茶花がひとつ。

赤い重なりの隙間から、赤鼻が言った通り、ぽたりと涙が零れた。


「もう、落ちちゃうんだ」

落ちたのは涙なんかじゃない。

花が悲しむわけがない。

痛みを感じるわけがない



「泣くことは逃げる事じゃないし、」


ねぇ、だって、泣きたいでしょう。



まるで囁くように私に語り掛けてくる言葉は。

名前も知らない子供はただ黙って私の頭を撫でている。


触らないで。

言えなかったのは、視界が滲んできたから。

子供じゃあるまいし。

頭をよしよしして貰っただけで、節操もなく泣いたりして。







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