グリンダムの王族

新婚生活

グリンダム王城の厨房では、いつものように夕食前の忙しい時間を迎えていた。

準備に奔走する人々の中、ララもまた食材の下ごしらえに精を出す。
そうしながら、時折厨房の入口へと目を向けた。

最近カインの側室である姫様は姿を見せていない。
来ないのが当たり前といえば当たり前なのだが、一緒に仕事をするのが常になっていたのでなんだか寂しい。

ララは誰も居ない入口から目を逸らすと、また仕事を再開した。



お妃教育を終えたリズは、部屋に篭っていた。
侍女の居ない寝台の上でただ座っている。何をするでもなく。

アーノルドに襲われそうになったあの日以降、厨房には行っていない。
そんな気持ちの余裕はどこにも無かった。
あの日のラルフの言葉が頭から離れない。

”譲ったら、何かこちらに利益があるのかな?”

”それによっては考えよう。”

また簡単に、物のように扱われようとしている。
そのうちまた突然ここを連れ出され、あの恐ろしい人のもとへ行かされるのだろうか。
そう思うと、ただ震えが止まらなかった。

あの日のことを思い出すたび恐怖が鮮明に蘇る。
”やめてください”と言ったのにやめてくれなかった。
動きを封じられ、口を塞がれ、体に触られ、、、。

泣いても暴れても止まらない手に、恐怖でおかしくなりそうだった。

もしラルフが来なかったら、、、。そう考えるとぞっとした。

思い出すだけで涙が出る。
リズは自分の体を固く抱きしめ、震えながら涙をこぼした。

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