グリンダムの王族
賑やかな晩餐会の席で、王子と王子妃はただ黙って座っていた。

時折挨拶に来る貴族に対して応対するときのみ、セシルは何も無かったように笑顔になった。
クリスはそんなセシルを横目で見ながら、口をつぐんでいた。

そんな彼に対してセシルは文句も言わない。
やがてまた2人の周りに人が居なくなった。

ふと見ると、セシルは全く食事が進んでいない。
伏目がちの目は、何も見えていないように思える。

「、、、おい」

クリスが声をかけた。セシルは反応しない。

「あれだろ。
お前の好きなやつって」

そう言いながらセシルを見る。
彼女は何も聞こえていないように、目を伏せたままだ。

「一緒に剣の稽古してた、黒髪の、、、」

クリスはグリンダムで見たセシルと黒髪の騎士を思い出していた。
2人は見つめ合って話をしていた。とっさに話しかけられない雰囲気だった。

「―――クリス」

セシルが呟いた。セシルが口をきいたので、クリスは言葉を止めた。
セシルはクリスの方は見ずに、静かに言った。

「やめて、、、」

そして目を閉じた。「お願いだから、、、」

クリスの胸に苦い想いが渦巻いた。

セシルを傷つけてやりたいと思っていたはずだった。
何を言ってもこたえない彼女を、どうにか負かしてやりたかった。

今、それがいとも簡単にできている。
それなのに、少しも心は晴れなかった。

クリスはそれ以上何も言わずに、自分も目を伏せた。

2人はそれ以降、一言も言葉を交わさずに晩餐会を終えた。
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