グリンダムの王族
外に面した廊下を歩きながら、クリスはふと裏庭に目を留めた。

騎士の中に混じって稽古をするセシルの姿が見える。
剣を振るう彼女はいつもながら少しも女性らしくない。
けれども着飾っているより似合っている気がした。

クリスはいつしか足を止め、ぼぉっとセシルを見ていた。

”私にだって好きな人がいたわよ!!”

いつかの彼女の言葉が蘇る。
それはクリスが想像もしなかったことだった。

初めて会った自分との結婚に抵抗を示していた様子もなく、”好きになれそうにない”と言って彼女との結婚を嫌がった自分に説教までした。

第一王子なのだから、国のために結婚するのは当たり前だと。

真剣に人を好きになったことがないから言えるのだと思った。
あんな風に涙をこぼすとは思わなかった。

セシルの剣が騎士の剣を落とす。
そしてふっと微笑んだ。

―――あいつに教えてもらったんだな。

クリスはそう思いながら、黒髪の騎士を思い出していた。

背が高くて、たくましく、男らしい騎士だった。
クリスは目を伏せるとまた歩き出した。

なぜか胸が苦しかった。

けれどもその理由はよく分からなかった。

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