グリンダムの王族
「如何いたしましたか?」

女官は男を見ながら、手のひらでリズを指し示す。

「こちらはカイン様のご側室様で、リズ様とおっしゃいます。
リズ様が厨房をお使いになられますので、場所を用意してください。
パンをお作りになるとのことですので、材料の用意もお願いします」

リズは思わず体を固くした。
忙しく働いているところに、王弟の側室が遊びにきた、、、と、そんな感じである。

あまりに失礼ではないだろうかと思い、リズは困ったように女官を見た。

言われた男は大慌てで、「カイン様のお妃様、、、これは、、、どうぞいらっしゃいました」と言って頭を下げた。

実際は歓迎などしていないに違いない。
リズは今更ながら馬鹿なことを言ってしまったと後悔した。

「あの、、、お仕事忙しいようでしたら、私、、、」

思わずそう言うと、男は慌てて「とんでもございません!」と言った。
女官は「それでは、私はこれで、、、。後はよろしくお願いします」と、リズを男に任せて去っていく。

「どうぞこちらへ」

後に退けなくなったリズは男に導かれるまま厨房の中を歩いて行った。

男は丁寧にリズを厨房の一角に通した。
そこではリズと同じ歳くらいの少女がこちらに背を向け、せっせと野菜の下ごしらえをしている。彼女の目の前には野菜が山盛り積まれていた。

「ララ、おまえその仕事あっちでやれ。
ここはカイン様のご側室様がお使いになられる」

男が言うと、ララと呼ばれた少女は驚いたように振り返った。
リズの姿を認め、「す、すぐどきます!」と慌てて大きな籠を用意する。
それに野菜を入れて場所を変えようということだろう。

「待ってください!移動しなくて大丈夫です!」

リズは慌てて彼女を止めた。
ララはまた驚いたような顔をして、動きを止めた。男も目を丸くしている。

「パンの前に、彼女のお手伝いをしてもいいですか、、、?
私野菜の皮をむくのは得意なんです」

リズの申し出に男は呆気にとられたような顔をした。

どう答えたらいいのか分からないという様子だ。
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