夜獣2-Paradise Lost-
貮:「お前を乗り越える」
あれから数日。

僕は雪坂の事を渚と呼び始めた。

協力者として、苗字では他人行儀だと感じたからだ。

向こうも僕の事を耕一と呼んでいるので問題はない。

今、渚の家で、朝食の白飯を食べている。

部屋に篭る事がなくなり、用意されるご飯を難無く食べられるようになった。

だが、食事時でも憎悪に飲み込まれている。

考える事は報復と能力の二つだった。

能力に関係する事ならば何でもする。

開花させるために、渚と体を何度も重ねた。

協力すると言った以上は、拒む事は許されない。

渚は僕の変化に戸惑いを隠せないが、関係のない話だった。

今のままでは乾の死体を築く事は不可能だ。

能力はわからないが、開花すれば分かるはず。

何をすれば手に入れられるというのか。

渚は僕を見て悲しそうな顔を浮かべた。

「何も悲しむ事はないよ。やるべき事をやるだけだ」

「耕一さんは本当に償う方法を見つけたんですか?」

「ああ」

元気になったんだから、冷たくても笑みを浮かべて欲しい。

君は僕を生かしたんだ。

死ぬチャンスを潰して、自分の望みを手に入れたんだ。

「渚は能力の開花した時の事を覚えているか?」

今の質問をしたのは初めてだ。

渚からも情報を得ておきたい。

アキラは僕と桜子を救うために能力を開花させてはいたが、必死になるという理由だけでは条件が足りなさ過ぎる。

「覚えていません」

「自分の初めてのことだぞ、忘れたのか?」

「生まれた頃より開花していましたから、いつでも使えたんです」

始祖たる者は怪我を負うことなく、能力行使できるのか。

「耕一さん達と違う点は『純血』というところです。ですから、赤ん坊が自然に歩けるようになるのと同じで、能力も自然に使えるようになっているんです」

僕は『純血』と同じ位置まで到達している。

ただ、『純血』には未知な部分が他にもある。
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