想うのはあなたひとり―彼岸花―



だんだんと鼓動がうるさくなっていく。
別に私は悪いことしてないから堂々としていればいいのだけど…手に汗が滲む。



「皐遅いよー何してたの?」




「あー寝てた。起きたらさっきみたいな。」



笑いながらこう皐は言う。
近づいてくる足音。


鼓動はさらに速くなる。



「…妃菜子?」




皐が私の名前を呼んだ瞬間、息が止まりそうになった。
昨日のこと忘れたの?
まさかね。関わるなって言ったのは皐よ?



「やっぱりなぁ…」



この時、弘樹がぼそっとこう呟いた。



そして世界が移り変わる。
突然、皐は私の腕を掴み引っ張った。



「…え…」



それはまるで風のようで。
皐に羽が生えて大空を飛んでいくような…。




「ちょっと…!!皐!!」




遠くから聞こえる小絵さんの声。




私の手を引っ張り、走る皐の後ろ姿を黙って見ていることしかできなかった。




< 119 / 385 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop