想うのはあなたひとり―彼岸花―



一時間に何度時計を見ただろうか。
皐と別れて約4時間余り。
私は落ち着きを取り戻せなかった。
そわそわして部屋を無駄にぐるぐると歩いていた気がする。


そして約束の時間。
カーテンから見える空は暗かった。
当たり前か。
今は夜なのだから。


今日は少し肌寒い。
薄手のカーディガンではちょっと寒かったかな。
体を小さくさせてベランダに出る。
コンクリート製なのか、余計寒く感じた。
ベランダに出るともう隣のベランダには皐がいた。
やはり皐も寒く感じたのか私と同じ格好をして立っていた。




「約束守ってくれたんだね」




「そうだよ。感謝してよね。こんな寒い中出てきてあげたんだから。で、話ってなに?」




「妃菜子にどうしても見せたかったんだ。元気になるかなって思って。奈月が教えてくれてさ。今日は…月が綺麗だって」




皐が真っ直ぐ見つめる先には、黄色く輝く満月が浮かんでいた。



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