想うのはあなたひとり―彼岸花―


それに気づいていなかった私は、前を向いて歩いていた。
何も思わず、ただ好きな人に向かって。


今にでも降りそうな天気の下を歩いて行く。
早く椿に会いたいな、なんて思いながら。
今日は機嫌がいいみたい。
母親と会っていないからかな。
鼻歌でも歌おうか。
やめよ。
そんなキャラじゃないし。

いつもの交差点。
椿との待ち合わせ場所。
ここで待ち合わせて数メートル先の学校へと一緒に登校をする。
でもここ最近一緒に行っていなかったな。
私が学校を休んでいたからかな。


「椿…」


小さな声で名前を呼んでも返事はない。
当り前か。
椿は猫じゃないんだから。
こんな小さな声に反応なんてしてくれるはずがない。


でも一向に椿の姿は見当たらない。
休み?
そんなことないはず。
椿が学校を休むなんて、風邪以外ありえないのだから。
もしかして私が来るのが遅くて先に行ってしまったのかも。


「しょうがないよね」


私は視線を下に落とし、隣に椿を迎えないまま学校へと向かった。


久しぶりの学校。
なんだか変な感じ。
周りの生徒の言葉に耳を傾ける。


「本当に台風来るのかな」


「学校休みになればいいのに」




このとき願えばよかった。






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