蝉時雨
出逢えて、よかった。
大きくて立派な日本家屋。

漆喰の白壁はどこまでも続いているように思えた。白壁の向こう側には松の木が見える。



「ここですか?」

「…はい。」


このお屋敷を見る限り、真夏さんは所謂お嬢様と呼ばれるような人物なのだろう。


「じゃあ、インターホン押しますね。」


私の人差し指がボタンに伸びた時だった、透さんにその腕を掴まれて顔を向けた。


「あの、唄さん。」

「はい?」

「一つ、お願いがあるんです。」

「何ですか?」


私の目に映った透さんの顔は、緊張したような面もちで私も緊張した。


「‥‥唄さん、僕を信じてくれますか?」

「え?はい。何ですか?!」


私がその問いに頷くと、透さんは少し笑って驚くような言葉を口にした。


「‥‥。」


目の前で笑う透さんが嘘なんか付いてるはずがない。


「お願いできますか?」

「‥‥はい。」

「ありがとうございます。」


透さんの笑顔から、心からの感謝を受け取った。


「じゃあ、押しますね。」



その願いを叶えるのに選ばれたのが私なんて…


でも、私じゃなきゃダメなんだよね。


私じゃなきゃ‥‥
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