蝉時雨
愛する人
ミーンミンミンミン‥‥
ジージージー…
あれから、夏が来る度あなたに会える気がしているけど、一度も会えていない。
きっと、それでいいのだと思う。
「なぁ、唄。」
「んー?」
「毎年かかさずに参ってるけど、誰の墓なんだ?」
「気になるの!?」
「や、だって…さ。そんな腹抱えてるのに、今年もだしよ。」
臨月間近だというほどに張った唄のお腹。その膨らみを心配そうに見つめながら龍之介は言った。
「今年は報告とお願いにきたの。」
「報告とお願い?」
「子供ができました。と…名前、いただいてもいいですかって。」
「名前って‥‥。」
唄の言葉に龍之介は膨らんだお腹を指さした。
「うん、そうだよ?」
「女だったらどうすんだよ。」
「女でもいいじゃん。綺麗な名前でしょ?」
唄は墓石に刻まれた名前に微笑みかけた後、お腹をさすりながら宿っている命に呼びかけた。
「ね、透。」
その顔はとても穏やかで綺麗で、母親だった。
「っ///‥‥仕方ねぇなぁ。」
そんな唄の表情に、未だに頬を赤く染める龍之介。悔しそうに、でも優しく笑って同意した。