昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
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…気持ちなんて、意思で変えられるもんやない。


そんなん十分わかっとるけど、それでも言い聞かそうとして。


何回言い聞かせても、結局まだ自分の中に残っとる。



…それで苦しむんは、人間の性なんやろか。





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「お疲れぃ!!」


平手で背中をバシッと叩かれて振り向いたら、にんまり笑ろた店長の顔があった。

海賊みたいな黒いヒゲが、くちびるの上で機嫌よく曲がる。


「風間くん、今日はもう上がってええよ!」

「え…あ、ハイ!もうそんな時間ですか?」


ビックリして時計を見たら、もう日が変わったとこやった。

時間たつんえらい早いな。まだあとゆうに一時間くらいはあると思てたわ。


…なんなんやろな。この、もうちょい働いときたかった感。


お先に〜て、あと何人か残っとるバイトに頭下げて、腰エプロンを外す。

着替え終わって更衣室を出ようとしたら、店長に呼びとめられた。


「あ、風間くん。米持ってかえらんのか?」

「米?」

「この前大量に余っとるやつ持って帰ったやん。ほらぁ〜米が足りんカノジョ、おるんやろ」



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