昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜

スッコーン!


…下駄を投げたらかっちゃんの額にクリーンヒット。めちゃめちゃエエ音が出た。スッコーン!!笑える。ほんま笑える。涙が止まらへん。

振り返らんと走り去った。下駄片方だけで。もうかたっぽは裸足で。もしかっちゃんが死んでたら、凶器は26センチの下駄や。



足が痛い。




「…………っ、」




…死にそうなくらい、めっちゃ痛い。






さっきは降りた階段をかけ上がる。乱れた後ろ髪が首にはりつく。

人混みに出て、その中を逆走して進もうとしたけど、もみくちゃになって動こうにも動けへん。


アホや。ウチは天下一品の大アホや。


大切にする。

大切にする。

大切にする。

もう忘れたから。

もう好きやないから。


口ばっかり立派で。意志なんてすぐにひんまがるくせに。

人混みの中に放り込まれたみたいに、気持ちも一歩も前に動けてないくせに。


足とか、お腹とか、耳とか、指先とか。

体のどっか一部が…いっそ全部が痛いよりも、思い出が一番痛いとおもった。


その思い出は、たしかに過去の自分やのに。




なぁ、動けへん。





……動けへんよ。






「優子………っ!!」



< 316 / 367 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop