昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
スッコーン!
…下駄を投げたらかっちゃんの額にクリーンヒット。めちゃめちゃエエ音が出た。スッコーン!!笑える。ほんま笑える。涙が止まらへん。
振り返らんと走り去った。下駄片方だけで。もうかたっぽは裸足で。もしかっちゃんが死んでたら、凶器は26センチの下駄や。
足が痛い。
「…………っ、」
…死にそうなくらい、めっちゃ痛い。
さっきは降りた階段をかけ上がる。乱れた後ろ髪が首にはりつく。
人混みに出て、その中を逆走して進もうとしたけど、もみくちゃになって動こうにも動けへん。
アホや。ウチは天下一品の大アホや。
大切にする。
大切にする。
大切にする。
もう忘れたから。
もう好きやないから。
口ばっかり立派で。意志なんてすぐにひんまがるくせに。
人混みの中に放り込まれたみたいに、気持ちも一歩も前に動けてないくせに。
足とか、お腹とか、耳とか、指先とか。
体のどっか一部が…いっそ全部が痛いよりも、思い出が一番痛いとおもった。
その思い出は、たしかに過去の自分やのに。
なぁ、動けへん。
……動けへんよ。
「優子………っ!!」