昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
首筋から少し下を辿っていくかっちゃんの熱。


くすぐったいのとはまた違う感覚がのぼってきて、ギュッと唇を噛んだ。




『優子ちゃんが一緒やったら勝も安心やわ』




…違う違うおばちゃん。
コイツが近くにおると、ウチが安心できへんねん。体力も精神力も持たへんねん。


幼稚園小学校中学校高校大学。同じ下宿先。

腐れ縁ついでに、もう一個のおまけ。


勝と優子。


何の因縁か、二人とも「まさ」で名前がカブッとんねん。

こんな因縁にとりつかれるなんて、前世で何か悪いことでもやらかしたんやろか。

…って多分、ばあちゃんがわざと似たような名前をつけただけやと思うけど。


やからウチは「かっちゃん」って呼んだし、かっちゃんはウチのことを「ゆう」って呼んだ。


昔っからずうっとそうやった。



「かっちゃん…ウチ明日1コマからあるんやって…」

「俺は午後からやから大丈夫」

「…っ…、お前ホンマいっぺん死ね…っ!」


かっちゃんの笑う息が脇腹にかかる。

逃げるように体をずらしたら強い力で引き戻された。


「…ゆう」


耳元でいつもより少し低い、かすれた声が降る。


ウチの名前。



かっちゃんだけが呼ぶ、ウチの名前。



明日もし1コマ出れへんかったら、昼食おごらせる。ヒレカツか海鮮丼。

絶対、食堂で一番高いモン選んで食べたんねん。


焦げたような、でもどこか甘い匂いが漂う203号室。


コタツの上で、食べかけのアイスが溶けとった。













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