昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
流されそうになる意識に逆らって、必死で踏みとどまる。

畳に接した足の裏がじんわりと湿っていた。


「は…っ、い…ん、嫌、や…っ!!」


唇が少し離れた瞬間に背けた顔。

頭ん中がドクドクして、まるで心臓になったみたいにうるさい。


…何かを考える暇もなかった。


かっちゃんが、そのままウチの首筋に噛みついた。


「────!?」


よく知っとる痛み。

かっちゃんのクセ。行為を始める前の、かっちゃんのクセ。


殴りたくて蹴りたくてはり倒したい、けどこの痛みにこんな気持ちになるのはなんで。

切なくて搾り取られそうな、こんな乱暴な気持ちになるんは、なんで。


首筋から、かっちゃんの温度が離れるんを感じた。

かっちゃんの黒髪が頬をかすって離れた瞬間。


右目から一粒、涙がこぼれた。



「………ごめん」



今更な言葉だけ残して、かっちゃんは部屋を出ていった。

一人になった部屋。テレビはまだつけっぱになったままやった。

壁から崩れ落ちるように、畳に座り込む。


一回こぼれてしまったら蓋が外れてしもたみたいにもう止まらんくて。


「……ふっ、」


ぼたぼたぼたぼた、アホみたいに涙が止まらんかった。

丸い斑点になって、畳を汚してく。


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