昼暮れアパート〜ふたりは、いとこ〜
泣くな。泣きたくなんかない、かっちゃんのせいで泣きたくない。

泣くな泣くな泣くな。心で唱えるけど、涙は止まってくれへん。

だって唱えただけでそうなるんなら、もうとっくに唱えとるよ。


かっちゃんなんか嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い、て。


何千何万回、唱えとるわアホ。


「…優子」


かっちゃんが出てってしばらくしてから、部屋に入ってったんは風間やった。

ゆっくりウチに近寄ってって、すぐそばに腰を下ろす。


「まさるくんが…出てったのが見えたから」

「………」

「…大丈夫か?」

「………っ、あー、うん、大丈夫、ほんまっ、全然、」


明るい声を出そうとしたけど、失敗した。言葉になってない。

風間にはカッコ悪いとこ見られてばっかや、ホンマ。


ホンマカッコ悪いなぁ、ウチ。


「…なんで…っ、」


もう何回も言うた。なんで。


「なんでウチ…、かっちゃんなんかすき、なんかなぁ…っ!!」

「………」

「なんで…っ、なんであんな最低なん、嫌いに、なれんのかなぁ…っ!?」


フワッて、体が包まれるんを感じた。

頬に触れる、浴衣の生地のザラついた感触。

風間に抱きしめられとるって気づいたんは、ウチの涙が風間の肩に染み込んだ時やった。


「…っふ、」


幼稚園小学中学高校。ウチはずっと強かった。強いって言われてきた。

やけどな、ホンマはこんなに弱いねん。かっちゃんの一挙一動で、こんな簡単にダメージ受けてまうねん。

我慢しとったのが、ここになって一気に来てもたみたいや。


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