【鬼短1.】顔無し鬼
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何回か四季がめぐって、
また春がきた。

ある日。
毎日ひとりだったおばあちゃんが、わたしの待ち望んだ者を連れてやってきた。

−"かおなしさま。ななを連れて参りましたよ。"


ああ、ななちゃん!
大きくなった。
よちよちと歩く姿が、愛おしくて仕方ない。


−"さぁ、これがかおなしさまのお家。
これから毎日、ななちゃんがひとりで来るんだよ。"

−"ひとりで?"

−"そうだよ。…かおなしさまにお話しすることは、誰かに聞かれちゃいけないんだよ。ほかのひとがお話しするのを、聞くのもだめだ。"


そうなんだ、ななちゃん。
ずうっと前からそうだったから、そうしなきゃいけないんだ。


ななちゃんは考えてる。
寂しいよね。不安だよね。こんなに小さいのに、ひとり、だなんて。


−"なな、ひとりでオハハシ、する!"

−"よおし。偉いねななちゃんは!"


二つに結った髪をぴょんと揺らして、大きくうなづいたななちゃん。
えらい!

でもおばあちゃん、オハハシじゃないよおはなしだよって言ってあげて。


−"かおなしさま。"

ななちゃんが、小さな小さな手を合わせて、わたしを見上げる。

ななちゃんの最初のお話しだね。



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