キミは聞こえる

「うっせぇよコージ! 聞き耳立てる暇があったら作業しろ作業っ」
「兄ちゃんこそくっちゃべってる暇があるなら作業しろ作業っ」
「うるせえぞおまえらっ! 手ぇ止めンな手をっ」

 また一人木の陰から男が現れた。
 桐野より一回りほどがたいのいい背の高い人だった。顔は―――またしても桐野似だ。

 上からな口ぶりからして、ということは彼は、兄か……?

 
「コージ?」
「はいはーい! コージは俺っ! 健康の康に、戦士の士で康士。もしかして代谷さんトコに越してきた人?」

 勢いよく手を上げて駆け寄ってきた桐野の弟、名を康士というらしい。身長は悔しいことに泉より高い。桐野に比べ髪は短くさっぱりとしていて清潔感がある。

「代谷泉といいます。こんにちは」
「……こっ、こんにちは!」

 頭を下げると、なぜか妙に焦ったような声が降ってきて首を傾げる。
 と、これまたどうしてか康士は頬のあたりをほんのり赤く染めて礼を返した。

 不思議な子だ、と思った。

(まあ、桐野の弟なら、わからなくもないか)

 妙な納得の仕方だったが、その理由だとかなりしっくりくるのでこれでよしとする。

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