キミは聞こえる

「間違い電話だった」
「そ、なのか」
「うん………―――あの」
「あの」

 かぶった。

「どうぞ」手を前に出して先を促すと「お、おまえが先に言えよ」と桐野はアゴをしゃくった。

「………見苦しいところ見せて、ごめん。もう、気にしなくて、平気だから」
「代谷」
「いきなりで、お、驚いちゃって……でも、もうだいじょうぶ」

 そう言って、苦手な作り笑いを浮かべると、すぐさま"作り物"と気づいたらしい桐野は怪訝そうな顔を向けた。
 そんな顔をしないでくれ、と思う。
 複雑な心境で見つめられても、相手の気持ちをすっきりさせるための術など持ち合わせていないのだから。

「代谷、俺な―――」
「もう、だいじょうぶだから」

 遮るように、泉は語調を強めて言った。桐野がこれ以上なにも言ってくれないように。これ以上、泉自身が困ることのないように。

 ……これ以上、説明のつけられない苦しみに悩むことがないように。

 踵を返してリビングに戻ろうとする泉の背に、桐野の声がぶつかった。

「おまえが心配しなくていいってんなら、もうなにも言わねぇ。けど、俺たち友達だろ」
「桐野くん」
「友達には、なにを言ってもいいんだぞ。……そ、そりゃあ内容にもよるけど、俺が言いたいのは、言いたいことがあれば溜め込むなってことだ。頼りたいときとか、すがりたいときは、素直になんでも言えばいいんだからな。無理だけはすんな」

 早口にそう言うと、桐野は泉の頭にぽんと手を乗せて、そのまま傍らを通り過ぎるとリビングに入っていった。
   
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