キミは聞こえる
「……俺、代谷さんを傷つけるようなことしたかな?」
……は?
思わずそうこぼしそうになって慌ててマフラーで口を押さえた。
やぶから棒になにを言い出すのかと思えば、私が傷つく?
それも桐野から? 一体どうして?
なぜそういう質問をされるのかさっぱりわからず、泉は眉をひそめ視線を彷徨わせた。
真剣な顔で返事を待つ桐野を見て、泉はますます狼狽える。
(なに、言ってんのこの人)
泉は立ち止まって小さく咳払いをした。桐野に向き直り、
「なにか誤解してる。私、なにも傷ついてなんかない」
そもそも、どうして私が傷ついていると思ったのか。
会ってまだ一週間で、まともに話したことすらないのに傷つく要因がないだろう。お互いに。
首を傾げ見上げると、
「だったらどうしてそんなつんけんした話し方なんだ?」
「え―――」
どきりとした。
そんな注意を受けたのははじめてだった。
目をそらして足元に視線を落としす。自分の靴すらよく見えないほど外は真っ暗になっていた。
(つんけん……してたのか)
桐野に言われてはじめて気がついた。
自覚していなかったが、泉の喋り方にはどうも刺があるらしい。
(知らなかった)
泉は素直に、ごめん、と頭を下げた。
「つんけんしてるつもりはなかったの。変な誤解を招いてごめんなさい」
こういうときは素直に謝っておくべきが吉だ。あとあと面倒にならなくて済む。
でも、と頭を下げながら泉は眉を寄せた。
でもそれならどうして桐野は自分が傷つけたなどと思ったのだろう。