キミは聞こえる
 
 延々と続く畑の間を泉たちは進んでいた。右手に広がるのはさくらんぼで、左手はりんご。
 枝切り作業、通称"剪定"の終わった木々はこざっぱりとしてなんとなく寂しい。夏頃には青々とした葉っぱで覆い尽くされるのだろうけれど、丸裸の今は見ているだけで寒くなる。

 ぽつぽつと見える蕾は可哀想なほど小さく、花が開くにはまだまだ時間がかかりそうだ。
 今にも雪が降ってきそうな曇り空にテンションが下がる。

 ……いいかげん、春よ来い。

 泉はため息をついた。

 寒さにではない。

(――……またか)

 畑から顔を上げると、首筋あたりに異様な視線を感じた。ちくりちくりと先ほどからずっと―――隣の男からだ。

 なにか言いたいことがあるようなのだけれど、桐野はずっと黙ったまま泉に視線を送ってくるばかりで、鬱陶しくてしょうがない。

 むずがゆいというか、なんだかざわざわしたものがすごく不快だった。

 耐えられなくなった泉は自分から口を開いた。

「…あの」
「うわあっ! な、なに!?」

 泉が顔を上げた瞬間、桐野は驚いて飛び上がった。あまりにびっくりされて思わずこっちまでどきっとした。

「なにって、こっちのセリフだけど」
「ご、ごめん。見てたの気づいてた?」

 ふつう気づくだろ。

 と突っ込みたいのをなんとかこらえ頷くと、桐野はどこか言いずらそうに言葉を濁した。

「そっか…うん、ごめん」
「言いたいことがあるなら言って」

 じゃないとすっきりしない。

 もやもやのままでも私は別にかまわないけれど、そっちはそうはいかないだろう。

 言いよどんでため込んで、またさっきのようにちくちく攻撃を受けるのは勘弁して欲しい。

 泉が促すと、桐野は数回視線を左右に往復させて「じゃあ」ともごもごした口調のまま話し始めた。
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