キミは聞こえる
 紙コップを膝に置いて佳乃は首を振った。

「違うの。本当に私、嬉しかったんだ」
「私だって、メールもらったら返事くらいかえすよ。……遅いけど」
「あはは確かに。でもね、私、高校入ってからはじめてだったんだ。大丈夫? って友達にメールしたの。それまでクラスに仲いい子いなかったし」
「他のクラスには友達いないの? 同じ中学の子も多いんでしょ?」
「うん、それは…そうなんだけど……」

 佳乃のジュースをかき回す手がふいに止まる。

 なんとも言えない横顔に、泉ははっと勉強合宿でのことを思い出した。
 千紗たちが言ったことだ。中学時代、佳乃はクラスメイトのしおりをどこかに隠したことがあるという。彼女らの言ったことを信じたわけではないけれど、そういった事件―――といったら大袈裟だけれど、佳乃が疑われたという一件が確かにあり、かつ周囲に広まっていたら、佳乃の立場は中学のとき既に最悪の状況にまで追い込まれていた可能性もすくなくない。

(余計なこと言っちゃったかな……)

「実を言うと、私、あんまり中学時代友達いなかったんだ。仲良くしてた子は確かにいたけど、高校に上がってクラスが離れたらもう全然。廊下ですれ違って手振ってくれるくらい。だからね、代谷さんがメール返してくれたのがすっごく嬉しかったの」
「そう」

 佳乃の心底嬉しそうな様子に泉はほっと息を吐いた。そして、ジュースを吸い上げながら、栗原さんも大変だったんだなぁとしみじみ思った。

 勉強ばかりに日々を追われていた自分の中学時代も結構なものだったと思うけれど、友人に見放されクラスメイト、ひいては学年の生徒全員に白い目を向けられたのだとしたら、彼女にとってそれ以上の苦しみはないだろう。

 佳乃は泉と違って周囲の視線をことごとく気にする質だ。勉強は頭脳肉体労働だが、佳乃の場合は神経労働だ。よほど堪える日々を送っていたに違いない。そうなると自然、泉から返信が来たことに異常な喜びを示すのもわからないではなかった。

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