キミは聞こえる
「私の中学時代、友達って呼べる友達はいなかったよ」
「え……?」
「友達かも、って感じのお節介焼きはいたけどね。だから正直いまも友達ってものがなんなのか、よくわかってない。桐野君は俺たち友達だよな、とかなんとかほざいてたけど、友達だからなにが変わるってものでもないから、千紗も響子も親しく話しかけてくれるけど、だから友達か、って考えるとよくわからない」

 素直な思いだ。泉の本音。
 友情なんて目に見えないし、人間口では綺麗事を並べても心でなにを考えているかわかったものじゃない。
 それを直接聴き取ることが出来る泉だからこそ思える現実、リアル。

「代谷さん……」

 いまでもまだ、人付き合いは面倒の極みだと思うし、友情とか、グループなんて人間を惑わすばかりの幻想だとしか思えない。
 だけど、
 それでも―――。

「でも、こんなふうに並んでたこ焼きをつついて、たい焼きをかじるのは、楽しいよ。新鮮で」

 佳乃とこうしてゆるやかなときに身を任せる時間は、ときどきあっても悪くないと思う。千紗や響子と馬鹿話に興じるのも。
 桐野と格闘ゲームに燃えるのも。

 それらすべてはこの町に来て、彼らに出会わなければ出来なかったことだ。

「代谷さん。うん、私も楽しい」

 とびっきりの笑顔を見せる佳乃に、泉も口許を緩め頷いた。


 それからしばらく経って、
 二人の間に並んだものがあらかた片付いた頃、佳乃の口からぽろりと一つの名前がこぼれた。

「あ、小野寺(おのでら)君だ」
「小野寺?」
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