キミは聞こえる
「あいつ明日からテスト前休みで金曜日テストなんだってよ。金曜日まで部活も休みだし、5時間しか授業ないときは図書室で待たせてから来るように言っとく。代谷、どうせ部活ないだろ」

 決めつけるな。
 ……確かにそうではあるけれど。

「でもさすがに悪いよ。高校まで行って中学校、遠くならないの」
「通り道だ」

 …………ああそう。
 玉砕かよ。

「本当は俺が迎えに行ければいいんだけど今週から朝練の時間が早まるんだよ」
「大会」
「そ」

 ふだん、桐野たち運動部員は、活動の少ない文化部員が朝学習(という名の私語タイム、またの名を宿題写させてタイム)をしている時間帯に朝練習を行っている。
 大会に向けて練習時間を延ばすのだろう。

「金曜の放課後は俺が送る」
「……部活は?」
「5時半まで」

 あるんかい。

「待ってろと、私に?」
「うん」
「わかった」

 きょとんとする桐野。

「やけに素直じゃねーか」
「結構ですって言って通用する?」
「しない」
「でしょ」

 なら、はなから諦めていたほうが早い。面倒は嫌いだ。

「じゃあ明日の朝、ここで待ってろよ」
「うん」

 頷くと、桐野は自転車にまたがった。傍らを通り過ぎるとき、思い出したようにペダルから足を下ろして振り返る。

「そういやなんでおまえ今日そんな黒い格好してんの」
「友香ちゃんに着ろって言われたから」
「変に目立つぞ」
「私だってばれなきゃ問題なしだよ。それなのになんで桐野くんにはわかっちゃったのか」
「歩き方。顔も見えたし」

 そうだ、桐野は猿視力だったのだ。
 伊達眼鏡など無意味かそうなのか!
 だがそんな野生児は桐野ただ一人だ。彼は例外中の例外だ。
 佳乃ははじめ誰だかわからず思いっきり目を反らしてきた。小野寺にばれたのは距離が近かったせいだろう。

 桐野だけが異常なのだ。
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