キミは聞こえる

三章-12


「―――ごめん、遅れた!?」

 そこは食パンじゃねーのか。

 と朝っぱらからおもわず心で突っ込んでしまったのは桐野のそっくり弟康士がコッペパンを掴みながら駆けてきたせいである。
 お母さんが丁寧にアイロンがけをしてくれただろうワイシャツがここに来るまで全力疾走したせいかシワになっていた。もうしわけない。

「ううん。ぜんぜん平気。わざわざごめんね、桐野君が無理言って。ちょっと待ってて、飲み物持ってくるから」
「いいって! 持ってるから」

 持ってるんかい。
 ついついと指をさす弟の指先に視線をやると、通学鞄の口からペットボトルのキャップがはみ出していた。

「俺の中学は茶とスポーツ飲料までなら持参オッケーなんだ。夏なら冷えたの。冬なら熱いの」
「わかってる学校だね」
「でしょ。だから飲み物とかいいんだ。それより学校行こ」

 消化に悪いスピードでみるみるうちにコッペパンが弟の胃袋に消えたと思ったら、どこからかバナナ味のゼリー飲料を取り出した康士。さすが兄弟。どっちも猿だ。
 ごっくんと、やや危なっかしい飲み込み音が聞こえたかと思うと、康士が泉を向いた。

「なんか、あったの?」
「どうして?」
「送り迎えしろって」
「……なにも聞いてないのに来てくれたの?」

 康士はきょとんとしながら頷いた。

 呆れた。
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