キミは聞こえる
 事も無げにそう言って、桐野は白い歯を見せるように二カッと笑うと、

「自分から話しかければいいんだよ」

 真夏のひまわりのような笑顔を近づけて、桐野は断言した。

(………は?)

 目が点になる。
 いきなりなにを言うのだこいつは。

 自分から話しかける? わけがわからない。
 泉は軽い頭痛をおぼえた。

 返す言葉が見当たらず、自分の発言に満足したように頷く桐野を見つめ、ただただ立ち尽くすばかりである。

「きつい口調になりがちなのは男子に慣れてないからなんでしょ」
「ま、まあ……」

 それだけではないのだけれど。

「うんうん。あとさ」

 鈴森に来て知らないヤツばっかだから声かけずらいんだよね。

 ――確かにそれもある。

 べつに人見知りが激しいわけではないけれど、周りが進学前からの友達同士だとどうしても入っていきにくいものだ。
 しかし、それ以前に、根本的なところで泉は自分から前に出ることはしないタイプである。

 面倒くさい。
 一人は楽だと思ってしまう部分もあるし。

 いままでずっとこれで通してきたのだ。今さら変えるのは困難だろう。正直、変えるつもりもない。

 だから、申しわけないけれど今回の桐野の提案は――

「じゃあ、そのこと帰ったら俺、みんなに伝えるから」
「ええっ」

 思わず声が上ずった。

「そうすればみんなも代谷さんに話しかけやすくなるだろ。けっこういるんだぜ。男女問わず代谷さんと仲良くしたいって言ってるやつ。だけどさ、こうきっかけがないっつーか、みんな下がり気味で。だからさ、俺が今日みんなに伝えて、あした代谷さんからおはようって言ってあげればいいよ。みんな喜んで返してくれるはずだからさ」

 なっ、いい考えだろ!
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