キミは聞こえる
「そのへんは大丈夫。私、断食とか絶対無理なやつだもん。泉はほんとにミスコン、出ないの?」
「出ないよ」
「よかったぁ。これで一人敵が減った」

 そう言うと千紗は嬉しそうにポケットから生徒手帳を出し、びーっと線を引いた。
 それは、少し残酷に思えてしまうほどに容赦なく、真っ直ぐに泉の名前の上を走っていた。

「……つかぬ事を訊きますが、なにそれ」
「敵予測名簿。二、三年もけっこう混ざってる。今年の祭りはきっと大波乱になるわ。敵は少なければ少ないほどいいでしょう? 出る気のない人には出ないよう釘を刺しておこうと思って」
「徹底してるんだね」
「もちろんよ。でも、泉がいなくなると知った今、残る敵は、二年の佐倉先輩と三年の塚本先輩に絞られるわね」

 ずいぶんな自信だなおい。
 名簿にはまだまだずらりと名前が連ねられているけれど。

「泉が出ればいいんじゃねって、年寄り連中は騒いでるらしいけど、聞いてない? はい箒」
「ありがとう。聞いた。でも、私そんなの出る柄じゃないし。愛想笑い苦手だし」

 響子は笑った。

「確かにね。でもそれが泉のいいとこだよね」
「へ? なにが」
「そうそう。フツーうちらぐらいの年になると周りに合わせておもしろくもないのに無理して笑わなきゃなんなくなるときって、あるじゃん? だけど泉って滅多なことでは笑わないからさ。格好いいなぁって思うときある」
「私が?」

 格好いい?

 泉は軽く目を見張る。
 なにかの冗談だろう、と思った。

 けれど、千紗も響子も互いの顔を見合わせてねーと頷きあっていることから、冗談でもからかってるつもりでもなさそうだとわかる。

 熱でもあるんじゃないのか、君たち。
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