キミは聞こえる
 佳乃の過去を佳乃以外の者から知ろうとするのは、どこか違う気がした。だから、やめる。

 けれど、それでもいつか、機会があれば。

 知りたい。

 しかし、いまはそのときではない。
 すくなくとも、佳乃本人がいるこの場所で、こんなにも大勢の人がいる中で、聞くべき話ではなかった。

「代谷さん、ちょっとここ、おねがい」
「ごみ、まだあった?」

 頷いた佳乃の元に箒とちり取りを持って向かう。

「ありがとう」

 泉が掃いたところを丁寧に拭き取って、立ち上がろうとする佳乃の腕を掴んで引き寄せた。

「な、なに」
「さっき、あの人、通ったよ廊下。今週、ゴミ当番みたい」

 囁くと、佳乃は、通ったと過去形で言ったにも関わらず廊下に視線を向け、頬を赤らめた。

「だっ、だからもうっ」
「教えてあげたんだよ。そんな照れなくても」

 まずい。千紗たちのからかい癖がうつったようだ。でも、佳乃はからかい甲斐があるため、やめられない。

 佳乃は逃げるようにバケツへ走っていった。

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