キミは聞こえる
「わ、渡せないよ…」
「どうして」

 昇降口に飾られたプランターの前で待っていると、苦笑しながら出てきた佳乃が泉の横に並んだ。

「私にもらったりしたら、困るでしょ?」
「? 言ってることがよくわからないんだけど」

 だって、と佳乃は靴の先を見つめながら小さな声でこう言った。

「笑い者にしたくないもん」

 佳乃から物をもらうことで小野寺に不幸が降りかかるかも知れないと、そう彼女は怖れているらしい。

 ……その考えが、すこし、腹立たしく思えた。

「中学の頃から変わらないで接してくれる数少ない人だから」
「なに、それ」
「……え?」

 ちょうどよく小野寺にパスが回った。
 ゴールへ向けて駆けていく。巧みに足を使い、ボールと共に身体をくるりと回転させて敵を避けると、小野寺の味方らしいチームメイトにボールを送る。

 額に輝く無数の光は汗だろう。同じように腕にも光るものを見つける。

 彼も、桐野と同じように夢に燃える一人の戦士。薄汚れた横顔から放たれる眩さに胸がざわめく。

 だがそれは、彼が一所懸命に一つのことに打ち込んでいるからだけではないだろう。

 小野寺とは、顔を合わせただけで、話したことは一度もないけれど、彼の優しさは本物だと泉は思っている。

 彼は、周囲の目を気にせず佳乃に接することが出来る者だ。それは今日の放課後、廊下で設楽にふざけられる直前に証明されている。
 近くに生徒がごまんといたにもかかわらず、小野寺は佳乃に「なぜ理事長室に行くのか」とごく自然に尋ねていたではないか。

 佳乃は、小野寺を笑い者にしたくないと言うけれど、佳乃にミサンガやその他なにを渡されたとて、それで彼の彼女に対する態度が変わるとは思えない。
 もし、小野寺が佳乃にプレゼントを渡されたことで手のひらを返すように接し方を変えるようなやつだったとしたら、

 その程度の腐れた人間だったとしたら、そのときは―――


 私が、黙っていない。

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