キミは聞こえる
 窓の桟に腰掛けて空を見上げる。おぼろ月だ。
 雲の合間から降り注ぐ冴え冴えとした光が、桐野の背中を押してくれるようである。

 すうっと冷えた空気を吸い込む。

 一番に言いたかったことは、これなわけで。

 浴衣の色はたしかに重要だけど、それはただの口実に過ぎなくて。

 栗原のことも、俺にとっちゃあおまけみたいなもので。

 なによりも優先度が高いのは、小野寺に言ったこのこと―――。


「俺さ、スタメンに選ばれたんだ」


 当日、おまえが見てる前で絶対シュート決めるから、だから応援しててくれよな。
 地区優勝、そんで県大会、地方大会、全国大会まで行って、活躍してみせるから、俺のことを見ててくれよ、

 代谷―――。

 ……なんてことまで言えたら格好いいのに、と思う。


 好きだと伝えることと同じぐらい声にするのが難しい言葉たちを携帯電話越しに送った気持ちになる。

 電話をしているだけで胸が詰まって、息をするのが苦しい。
 俺の想いをほんのわずにでも感じ取ってくれたら、どんなにかいいことだろう。


 ………代谷。


 俺、こんなにおまえが好きなんだ。



「応援してるよ」
「……え?」

 いま、なんつった?
 なんか、俺の予想してた返事とずいぶん違う言葉がかえってきた気がする。

 いや、ずいぶんどころか、180度違うような。

「仕方なくとかじゃなくて、ちゃんと応援してるから。会場、行くから。怪我だけはしないで、頑張って」
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