キミは聞こえる
「桐野君?」
「あっ、し、代谷か?」
「うん」
「いま、なにしてた? 寝てたか」

 声はまだはっきりしているけれど。

「ううん。ピアノ弾いてた」
「ピアノ? おまえ、ピアノ弾けたのか」
「聞かせるほどじゃないけど。今日、修理に出してたピアノが返ってきたの。桐野君は?」
「そうなのか。風呂上がって、留守電聞いてた」
「そっか」
「あ、の……さっ」
「うん?」

 ぎゅっとタオルを握りしめる。

「ありがと、な」
「なにが?」
「訊いてくれて」
「ううん。あ、えっ、それってどっちのこと? 好みを桐野君に訊いたこと? それとも美遥さんに確認してくれてってこと?」

 ちょっと噴き出す。「どっちも、だよ」

「そ」
「小野寺のこと、わかったから」
「勘違いしないでね。なんとも思ってないから。というか―――」
「なんとも思えない、だろ?」

 遮って尋ねると、一寸の間を置いて、うんと代谷は返した。

「俺も、栗原のことはただの友達としか思ってない。栗原のことは、頼まれたんだよ」
「頼まれた?」
「名前は言えねぇけど…なんか栗原暗かったから、それとなく訊いてみてくれって。一番近くにいたの代谷だっただろ。ほら、おまえって連絡先交換してるやつ少ないから、俺以外に頼めるヤツいなかったらしくてさ」
「そうだったの」
「納得してくれた?」

 無音が返ってきた。少し遅れて、

「あ、うん」

 と声がした。またちょっとだけ噴く。

「いま頷いただろ?」

 なにも言わずに。おそらく電話だということを忘れたんだろうと思う。

「なんでわかったの」
「だいたいわかってきた。代谷の性格」
「……素直に喜べません。それより、こんな時間まで起きてて疲れてないの?」
「疲れてるよ。もうすぐテスト休みだからメニューきついんだ」
「それならもう休んだほうがよろしいのでは?」
「……なぁ代谷」
「はい」
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